カレイの仲間(Pleuronectes americanus)は、海水凍結温度である-1.9℃に近い極域海洋でも生存可能である。しかしこの温度で生存できる理由は不明だった。なぜならこの魚は、-1.5℃の水温に耐えられる「凍結防止」保護能しかもっていないと思われたからだ。今回、この謎の説明が試みられている。魚の血液中に新たに見つかった不凍タンパク質が、大変な保護能力をもつことがわかったのだ。極域海洋に生息する魚類が低温で生息できるのは、不凍血漿タンパク質(AFP)が、氷の結晶に結合して細胞の損傷を防ぐためである。このカレイは、研究の進んだI型AFPをもつが、P L Daviesたちによって発見された新しいタンパク質の作用により、凍結しつつある海水中でも生存可能である。新たなAFPは極めて効果的に働き、保護能力は昆虫のAFPに匹敵する。この新しいタンパク質は、今日まで機能が不明であったカレイ遺伝子5aの産物である可能性があると研究チームは述べている。この遺伝子産物は、従来の不凍タンパク質に使われてきた精製法(室温、低pH)では、その活性が不可逆的にすべて失われてしまう。これが、同定されるまで30年あまりを要した理由であろう。