Nature ハイライト

神経生物学:記憶の機構を再考する

Nature 493, 7432

長期増強(LTP)すなわち神経細胞間のシグナル伝達の持続的強化は、かなり以前から、記憶に相当する細胞レベルの事象だろうと考えられてきた。だが、LTP維持の基盤となる特異的分子機構が明らかになり始めたのは、つい最近のことである。しばらく前に、薬理的阻害剤を用いた実験を主な根拠として、プロテインキナーゼM-ζ(PKM-ζ)の持続的な維持がLTP維持に重要である可能性が示唆された。今回、2つの研究チームが、遺伝子操作によりPKM-ζを持たないマウスを作成し、LTPと記憶におけるPKM-ζの役割をより直接的に検証した。R HuganirたちのグループとR Messingたちのグループはそれぞれ、PKM-ζの喪失は、LTPあるいは記憶形成に影響しないことを見いだした。そしてこのような変異マウスでは、PKM-ζが存在しないにもかかわらず、このキナーゼの阻害剤によって記憶が破壊される。これらのデータは、LTP維持に対するPKM-ζの役割に疑問を投げかけており、長期可塑性を調節する重要な分子を探す研究が再び始まることになった。

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