Nature ハイライト

進化:協力と裏切りのせめぎ合い

Nature 441, 7092

協力行動の進化とその維持の説明は一筋縄ではいかない。協力的な集団は、共有資源を利己的に使う「裏切り者」によって弱体化されうるため、大方の理論では通常、裏切り者が協力者を駆逐してしまうと予測されている。だが、グルコースを有効利用する「協力型」酵母系統と、グルコースを「利己的」に使う「裏切り型」酵母系統の間の競争実験から、裏切り者が必ずしも繁栄するわけではない理由を説明できそうだ。MacLeanとGudeljのこの実験は、協力と裏切りという2つの戦略は、どちらにもコストと利得がついてまわるために共存可能なことを示している。つまり裏切り戦略にもコストがかかるわけで、今回の場合だと協力戦略に比べてできる子孫の数が少なくなるのである。  もう1つの論文で大槻たちは、自然選択が協力行動に有利に働きうることをグラフ理論で実証している。彼らは、グラフ上の点を個体に見立て、これらの点からなる構造化された「バーチャル」な個体群の進化の動態を調べた。利他的行動のもたらす利得をコストで割った値が隣人数の平均を上回る場合、協力行動が有利になる。そのため、たとえ評判の効果や戦略上の複雑さがなくても、この「社会的粘性」(social viscosity)の結果として協力行動が進化しうるのである。

目次へ戻る

プライバシーマーク制度