大気中の二酸化炭素が海洋に溶け込むと海洋水の酸性度が高まり、炭酸イオン濃度が下がって、一部の海洋生物やサンゴは白亜質の殻を成長させられなくなってしまう恐れがある。今週号に報告された研究では、化石燃料の燃焼による二酸化炭素放出のペースが現在のままであれば、海洋生態系に深刻な影響が出るのは、従来考えられていたような数百年以内のことではなく、数十年以内となりそうだと予測されている。 J C Orrたちは複数のコンピューターモデルを使って、この先100年にわたる海洋炭酸イオン濃度を予測した。炭酸イオンは多くの海洋生物に取り込まれて、殻や外骨格を作るアラゴナイト(炭酸カルシウムのとる結晶形態の1つであられ石ともいう)となる。ところがOrrたちの予測結果では、二酸化炭素レベルの上昇により、2100年までに南大洋(南極海)に加えて太平洋の亜北極域の一部までもがアラゴナイトがほとんど残らない状態になる。 Orrたちはこれらの予測が生物にもたらす影響を評価するため、翼足類(カメガイ科などを含む浮遊性腹足類の一群)の1種を、2100年までに南大洋表面水が達すると予測される条件下に置いた。すると、こうした条件下では48時間以内に貝の殻は著しく溶解してしまった。Orrたちによれば、これらの生物はこのような条件でも生き延びられるようにすばやく適応することはできそうもなく、こうした生物がいなくなれば、それらを餌とする魚類やクジラ類に影響が出るだろうと述べている。同様の海洋の変化は、魚類にとって重要な生息域である冷水性サンゴにも影響を及ぼしかねない。