考古学:ベスビオ火山の火山灰雲が脳をガラスに変えた
Scientific Reports
2025年2月28日
西暦79年のベスビオ火山(Mount Vesuvius;イタリア)の噴火の間にヘルクラネウム(Herculaneum)で命を落とした人物の頭蓋骨の中から発見された独特な暗色の有機ガラスは、非常に高温ではあったが、短時間で消滅した火山灰の雲によって命を落とした際に形成された可能性が高い。Scientific Reports に掲載された研究結果に基づくこの結論は、その人物の化石化した脳の一部と考えられるガラスの物理的特性の分析に基づいている。
ガラスは、その形成に特定の条件が必要なため、自然界ではほとんど発生しない。物質がガラスになるには、液体が固体になる際に結晶化しないように急速に冷却されなければならない。そのためには、物質とその周囲の間に大きな温度差が必要であり、物質は周囲の温度よりもかなり高い温度で固体にならなければならない。そのため、有機物の主要成分である水が凝固するほど周囲温度が十分に低くなることはまれであり、有機ガラスが形成されることは極めて難しい。有機ガラスが自然に存在する唯一の例は、2020年にイタリアのヘルクラネウムで確認されたが、このガラスがどのように形成されたのかは明らかになっていない。
Guido Giordanoらは、ヘルクラネウムのコレギウム・アウグスタリウム(Collegium Augustalium)でベッドに横たわった状態で発見された、同市の死者個人の頭蓋骨と脊髄から採取したガラス片を分析した。X線と電子顕微鏡を用いた画像化を含む分析の結果、脳がガラス化するには、少なくとも510℃以上に加熱された後、急速に冷却される必要があることが示された。
著者らは、もしもこの人物がヘルクラネウムを埋めた火砕流のみによって加熱されたのであれば、このようなことは起こり得なかったと指摘している。なぜなら、火砕流の温度は465℃以上には達せず、ゆっくりと冷却されるからだ。したがって著者らは、現代の火山噴火の観測に基づいて、超高温の火山灰雲が急速に拡散したことが、ベスビオ火山の噴火による最初の致命的な現象であったと結論づけている。著者らは、このような現象は、雲が消滅するにつれて急速に周囲の温度まで冷える前に、個体の温度を510℃以上に上昇させたであろうと理論づけている。この個体の頭蓋骨と脊椎の骨が脳を完全な熱分解から守り、この独特の有機ガラスを形成する破片を残したかもしれない。
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- Published: 27 February 2025
Giordano, G., Pensa, A., Vona, A. et al. Unique formation of organic glass from a human brain in the Vesuvius eruption of 79 CE. Sci Rep 15, 5955 (2025). https://doi.org/10.1038/s41598-025-88894-5
doi:10.1038/s41598-025-88894-5
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