コンピューティング:光速で処理するチップ
Nature
2025年4月10日
光と電気を組み合わせたコンピューターチップは、従来の電子チップと比較して、エネルギー消費量を削減しながら演算性能を向上させることが示されている。今週のNature に掲載される2本の論文において、フォトニックコンピューティングチップは、人工知能技術の進歩によって高まるコンピューティング需要に対応する可能性を示している。
人工知能(AI:Artificial Intelligence)やディープラーニングモデルの複雑化に伴い、従来の電子計算では限界に達しつつあり、エネルギー需要はますます増加している。電子の代わりに光子を使用するフォトニックコンピューティングは、これらの課題に対する潜在的な解決策となる可能性がある。人工知能の中心的な演算処理である乗算と累積は、光回路を使用することでより高速かつ効率的に実行できる。このような利点は、光チップを従来の電子機器に統合したハードウェアでは実証が困難であったが、2つの新しい論文では、シリコン電子機器と統合した光コンピューティングチップの性能を調査している。
Bo Pengらは、PACEと呼ばれる光アクセラレーターを実証している。これは、リアルタイム処理に重要な計算速度の指標である超低レイテンシーコンピューティングを可能にする。64 x 64 のマトリックスに16,000以上の光子コンポーネントを配置した大規模なアクセラレーターは、高速コンピューティング(最大1GHz)を可能にし、小規模な回路や単一の光子コンポーネントと比較して最小レイテンシを最大500分の1に削減できることを実証した。PACEは、イジング問題(Ising problems)として知られる難解な計算問題を解決できることが示され、現実世界のアプリケーションへのシステムの適用可能性が示された。
独立した論文で、Nicholas Harrisらは、AIモデルを高精度で効率的に実装できる光子プロセッサーについて説明している。このプロセッサーは、128 x 128 の行列を4つ備えており、自然言語処理モデル BERT(Bidirectional Encoder Representations from Transformers) や、画像処理に使用される ResNet(Residual Network) と呼ばれるニューラルネットワークを、従来の電子プロセッサーと同等の精度で実行することができる。著者らは、この光子プロセッサーには、シェイクスピアのような文章の生成、映画レビューの正確な分類、およびパックマンなどの古典的なアタリ社のコンピューターゲームのプレイなど、さまざまな用途があることを示している。
両チームは、さらなる最適化が必要であるものの、それぞれのシステムは拡張可能であると示唆している。「光コンピューティングは数十年にわたって研究されてきたが、これらのデモンストレーションは、光の力を利用して、より強力でエネルギー効率の高いコンピューティングシステムを構築できるようになったことを意味するのかもしれない」と、同時掲載されるNews & Viewsの記事でAnthony Rizzoは述べている。
- Article
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- Published: 09 April 2025
Hua, S., Divita, E., Yu, S. et al. An integrated large-scale photonic accelerator with ultralow latency. Nature 640, 361–367 (2025). https://doi.org/10.1038/s41586-025-08786-6
- Article
- Published: 09 April 2025
Ahmed, S.R., Baghdadi, R., Bernadskiy, M. et al. Universal photonic artificial intelligence acceleration. Nature 640, 368–374 (2025). https://doi.org/10.1038/s41586-025-08854-x
doi:10.1038/s41586-025-08786-6
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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