Nature ハイライト 医学:鳥インフルエンザ感染がヒトの間で広がらない理由 2006年3月23日 Nature 440, 7083 致死性のH5N1型鳥インフルエンザウイルスは、ヒトの肺で効率よく増殖できるが、ヒトからヒトへの感染はめったに起こらない。今回その理由を説明するのに役立ちそうな知見が得られた。鳥インフルエンザウイルスは、気道中のヒトインフルエンザウイルスが感染しやすい領域とは別の領域に選択的に結合するというのである。 ヒトあるいは鳥に感染するインフルエンザウイルスがねらうのは、気道の内側を覆う細胞の表面にある同一の分子だが、その分子構造にごくわずかな違いがある。河岡義裕たちは、この違いが患者でどのように表れるかを明らかにしている。ヒトのウイルスが選択的に結合する型の分子は気道上部の細胞に多いのに対し、鳥のウイルスが標的とする型の分子は肺のもっと深い部分、肺胞とよばれる構造中の細胞に多い。 H5N1型のヒトからヒトへの感染が増えない理由は、これで説明できるかもしれないと河岡たちは考えている。鳥インフルエンザウイルスは選択的に肺の奥深くの細胞へと入り込むと思われるので、感染者が咳やくしゃみによってウイルスをまき散らす可能性が低くなるのだろう。だが、このウイルスが気道上部の細胞への感染力を獲得すると、それはヒトでのH5N1型大流行の恐れを現実のものとする重要なステップになるかもしれないと著者たちは付け加えている。 2006年3月23日号の Nature ハイライト 医学:鳥インフルエンザ感染がヒトの間で広がらない理由 環境:保護地区だけではアマゾンを守れない 農学:イネ病原体の感染の仕組み 地球:メタン生成菌の最古の証拠 工学:チップの中へ光を押し込む 化学:ペダルの力 目次へ戻る