Nature ハイライト

材料:スプレー塗布で半導体チップが作れる液体状シリコン

Nature 440, 7085

今回新たに報告されたシリコンデバイスの作製法により、多くのエネルギーを必要とし、コストがかさむプロセス方法は過去のものとなるかもしれない。今週号で古沢昌宏たちは、マイクロエレクトロニクスに十分応用可能な品質の結晶シリコン膜を、「液体シリコン」のようなものから作製する方法について述べている。この液体状シリコンは、高速回転させた表面上に滴下して薄く延ばしたり、あるいはインクジェットプリンターから吐出させることで表面上に塗布できる。  シリコンチップ上にマイクロエレクトロニクスデバイスを作製するのはハイテクな作業で、極めて毒性が高い化学物質を扱う実験室と同程度の清浄さに保たれた場所で行われる。シリコンなどの半導体の層は通常、高真空中でチップ上に蒸着され、極微量の汚染ガスやちりがあれば半導体層は使い物にならなくなってしまう。  古沢たちのシリコン「ソフトプロセス技術」は、高真空・高温、あるいは超清浄な環境は必要としない。このプロセスからは平坦な微結晶がモザイク状に並んだ、いわゆる多結晶シリコンができる。その電気特性は、コストがかさむ従来の方法によって作製した多結晶シリコン薄膜に匹敵する。  今回使われた「液体状シリコン」は、実際には、シリコン原子が短い鎖状に結合し、水素原子にキャップされた分子からなるポリシラン系物質である。この物質を合成するのには、5個のシリコン原子が環状に結合したシクロペンタシラン分子が出発物質として使われた。この液体化合物に紫外光を照射すると環のいくつかが開裂し、鎖がつながってより長くなる。次にこの混合液体をトルエンなど有機溶媒で希釈し、それを表面上に薄く延ばすか、スプレーで塗布する。この液体膜を500℃付近でベークすると、膜が多結晶シリコンに転換されるのである。

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