癌細胞が体中に広がって、別の場所に癌ができることを転移というが、この転移に一役買う新しいタンパク質が同定された。ほとんどの細胞は、固定されている場所から引き離されると死んでしまう。これを「アノイキス」(語源はギリシア語の「宿無し」)という。ところが、癌細胞はまわりとの接触を失っても生き延び、これを利用して転移する。D S Peeperたちは、細胞をアノイキス耐性にする遺伝子を同定しようとスクリーニングを行い、TrkBというタンパク質が転移にかかわっている可能性があることを明らかにした。TrkBは大型の細胞凝集体の形成を誘導するが、この凝集体は懸濁液中でも生存し増殖する。マウスでは、これらの細胞が成長の速い腫瘍を形成し、リンパ系に浸潤して体の他の部位へと広がる。ヒトのTrkBレベルが高い癌の悪性度が高い理由は、この発見によって説明できそうだ。TrkBを不活性化する薬剤によって、ある種の癌の成長と転移を遅くすることができるかもしれない。