アリやハチなど社会性のある昆虫のコロニー(同じ巣に暮らす集団)では、繁殖は専門化した「女王」が行い、コロニー内の他の雌(「ワーカー」と呼ばれる働きバチや働きアリ)は繁殖能力を捨て去っている。血縁選択説によると、女王とワーカーはすべて非常に血縁度が高く、ワーカーは自身の子ではなく血のつながった女王の子を育てても不利益はほとんどないため、こうした状況が続くのだという。しかし一部のワーカーは繁殖することができ、実際に「禁制」の繁殖を行って未受精卵を産み雄の子を作り出す。そもそも血縁選択説は、ワーカーによる繁殖の程度の予測となるといささか分が悪かったが、今週号に掲載された研究成果によって、またさらに立場が危うくなった。A F G Bourkeたちによると、ツチマルハナバチ(Bombus terrestris)のワーカーは血縁関係のない同種のハチの巣に飛んでいき、そこで雄の子を産み育てることで、出身コロニー内部の血縁関係からくる束縛をうまく回避しているというのだ。こうした「社会寄生」をするワーカーは、出身コロニーで繁殖する定住ワーカーに比べると早めに繁殖し、繁殖能力も攻撃性も十分に高かった。現在のところ、理論ではこの種の巣外行動を想定していない。ワーカーの利己主義が協同作用の進化を損なう可能性を説明するには、血縁選択が定住ワーカーにもたらす利益を考察するだけの段階から一歩先に進む必要がある。