分子生物学のデータから、あらゆる場所にすむ微生物の非常に広大な多様性が明らかになりつつある。だが、こうした微生物がどんなふうに群集を作り上げているのかは、よくわかっていない。微生物の集合体はランダムな寄せ集めなのだろうか。それとも、何らかの予測可能な形で多少なりとも互いに近縁な生物から作り上げられるのだろうか。M F Polzたちは沿岸域の細菌プランクトン群集から得た分子データを調べてこの問題に取り組んだ。調べた分子は、リボソームという細胞内成分を作るのに使われる、ある種のリボ核酸(RNA)である。このリボソームRNA(rRNA)の配列は細菌によって違うが、分子進化によって種間の近縁度が不明瞭になるほど差は大きくはない。そのため、環境から採取・抽出したrRNAの配列変異を使って、群集構造を調べることができる。その結果、試料から得たリボタイプ(固有のrRNA配列)のうち半分以上が、配列変異が1%未満のものからなる集合(クラスター)に分けられた。このことからみて微生物群集は、ごく近縁な微生物からなる比較的少ない数の接種菌株が大部分を占めている。Polzたちによると、選択的な一掃作用を何度となく受けたのち、こうした細菌群集が生じ、その後は近縁な微生物同士の競争が弱すぎて群集から多様性が排除されずに存続したのだという。