なじみの曲なら最初のコードを聞いただけで即座に曲名を言えることがあり、こういうことは具体的な判断をすぐに下せるほどの十分な情報がなくても、結構間違わないものだ(ビートルズの「ハード・デイズ・ナイト」が良い例)。音を認識し、その発生源を割り出す能力は、音でコミュニケーションをとるうえで非常に大事である。ビートルズのファンはさておき、昆虫やカエルなど多くの動物は、同種の異性が出す音を認識し、背景の雑音からこれらの信号を拾い上げて、その発生源を目指して進む。こうした芸当を動物たちがやってのける仕組みを学ぶことができれば、知覚一般の理解も進み、ロボットの人工知覚系の設計にも役立つ。B HedwigとJ F A Pouletは、フタホシコオロギ(Gryllus bimaculatus)の雌が、従来考えられていたよりもはるかに素早く、まるで「ロボットのように」雄の求愛歌に反応することを示している。雌コオロギが雄の求愛歌のほうに向きをかえるとき、雌はまず歌の特徴的なパターンを読み取っているのだろうと一般に考えられているが、これは時間がかかる作業である。ところが、コオロギのごくわずかな(歩行中と飛行中の両方の)動きまで調べる高感度測定法を用いたところ、雌コオロギは歌の信号の各パルスに応答して敏速に方向を切り替えていることがわかった。こうした反応は歌の構造に対するものではなく、単に歌が聞こえてきたことに対するものだが、旋律が展開し始めたときには、パターン認識処理過程が長い時間スケールで反応のゲインを調整するらしい。