チャールズ・ダーウィンの『種の起原』が、歴史上最も影響力の大きい書物の1つであることに異論をはさむ向きはまずないだろう。だが、この著書には図版がたった1つしかなく、進化を枝分かれのある木に模して描いた図のみである。これ以降、進化生物学者たちは樹木のような枝分かれの過程で新たな種ができると考えてきた。問題は、このモデルでは生命史の初期の出来事をうまく説明できないことだ。生命史の初期には遺伝子のやり取りによって新しい生物が作られた可能性があり、既存の生物同士が大々的に吸収・合併することさえあったとみられる。核のある真核細胞(人体もこの種の細胞からできている)の起源がその適例である。専門家たちの見るところでは、真核細胞は多様な細菌の吸収・合併によりでき上がったものだが、従来の手法では十分な信頼性をもって真核生物の前駆生物の正体をつかむところまでいっていない。樹状図作成にあたって吸収・合併という過程を組み込むことは、ある程度まで可能だが、得られる結果はどうしても妥協の産物となる。だが、もし生命の初期進化がまったく異なるモデルに従って進んだのであり、枝分かれという想定がまるで見当違いだったとしたらどうだろうか。これが、今週号でM C RiveraとJ A Lakeが提起した疑問である。2人は新しい進化解析法を使い、進化史の根元部分を1つの環にすれば系統図が最もうまく描けることを示している。この環から、ちょうどブレスレットのあちこちから飾りが垂れ下がるように、真核生物や細菌といったさまざまな分類群が分かれて出ていく形になる。RiveraとLakeが「生命の環」(ring of life)と名づけたこの環では、真核生物の両隣を見ることで、真核生物の起源を2種類の非常に異なる細菌の融合までたどることができる。一方はおそらく光合成細菌、もう一方は古細菌という興味深い仲間の一員である。この研究成果は議論を巻き起こすことになりそうだ。