Nature ハイライト

Cover Story:ひびの入った鏡:ニュートリノに見いだされた物質と反物質の対称性の破れを示す兆候

Nature 580, 7803

どのようにして物質が反物質よりも多く存在するようになったかは、宇宙の形成に関する基本的な問題の1つである。この差異は、基本的な物理法則の破れに関連していると考えられている。物理法則は基本的には対称で、この宇宙で物質粒子に当てはまる法則は、鏡像宇宙の反物質粒子にも当てはまるとされる。しかし、これは常に当てはまるというわけではなく、クォークとその鏡像の反クォークは全く同じようには振る舞わないことが示されている。荷電共役変換パリティ反転(CP)対称性の破れと呼ばれるこうした対称性の破れは、電子、ミューオン、ニュートリノを含む素粒子群であるレプトンではまだ実証されていない。今回T2Kコラボレーションが、ニュートリノと反ニュートリノの相違を99.7%の信頼水準で測定し、CP対称性の破れを示す兆候を95%の信頼水準で得たことを報告しており、対称性の破れの探究におけるこの問題に大きな進歩が見られた。T2Kコラボレーションは、スーパーカミオカンデ検出器(表紙の写真)を用いて、295 km離れた茨城県東海村のJPARC大強度陽子加速器施設で生成されたニュートリノを捉え、ミューニュートリノが電子ニュートリノになる確率と、反ミューニュートリノが反電子ニュートリノになる確率が異なっていると思われることを見いだし、レプトンにおけるCP対称性の破れの兆候を得た。将来、より精密な測定によって裏付けが得られれば、この対称性の破れは、この宇宙で物質が余剰に形成された理由を説明する手掛かりになる可能性がある。

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