Nature ハイライト
物性物理学:低磁場における分数チャーン絶縁体
Nature 600, 7889
1988年、トポロジカル秩序や電荷分数化、その後の非アーベル統計といった新しい概念を導入したとして、分数量子ホール効果の発見にノーベル賞が贈られた。分数量子ホール効果を安定化するには高磁場が不可欠だが、この高磁場が、分数量子ホール状態が関与する応用の可能性に対する大きな障害となっている。今回A Yacobyたちは、モアレグラフェンにおいて、最低5テスラという低磁場で、分数量子ホール状態に似た分数チャーン絶縁体という状態を観測したことを報告している。分数量子ホール状態では、磁場の役割は電子バンド構造を分裂させて非ゼロチャーン数のランダウ準位を形成することだが、今回の磁場の役割はそうではなく、元から存在するチャーンバンドのベリー曲率を再分布させることである。これらの結果は、分数チャーン絶縁体をゼロ磁場で実現できる可能性を強く示唆しており、モアレ系におけるエニオン励起の探索や操作への道を開くものである。
2021年12月16日号の Nature ハイライト
量子物理学:電子スピンの蛍光検出
物性物理学:低磁場における分数チャーン絶縁体
化学:簡単になった同位体標識
気候科学:巨大な西南極氷床によって説明された中新世の海水準の不可解な変動
古生物学:ラエトリの足跡はやはりヒト族のものだった
コロナウイルス:COVID-19に対する宿主の遺伝的なリスク要因を解明するための世界的な取り組み
行動科学:応用行動科学におけるメガスタディー法
計算論的神経科学:運動記憶を理解する
進化遺伝学:英国のパンデミックを再構築する
免疫学:SARS-CoV-2スパイクに対して生じるポリクローナル抗体の中和範囲
構造生物学:聴覚の分子基盤