Nature ハイライト
Cover Story:エアロゾルのベールに隠された脅威:火山噴火の研究から、気候工学による太陽光の遮蔽が作物にもたらすリスクが明らかになった
Nature 560, 7719
表紙は、フィリピンのピナツボ山の1991年の噴火で生じた粉塵のベールによって地球が暗くなり冷却される様子を表したイラストである。こうした事例に着想を得て、硫酸塩エアロゾルの前駆物質を成層圏に投入して温暖化する気候の影響を緩和しようという気候工学的提案がなされている。今回J Proctorたちは、ピナツボ山の噴火とメキシコのエルチチョン噴火(1982年)を自然実験として用いて、そうしたエアロゾルのベールが全球の作物収量に与える影響を調べている。その結果、成層圏のエアロゾルによって生じた太陽光の変化は、トウモロコシ、ダイズ、イネ、コムギの収量に悪影響を及ぼすことが分かった。次に著者たちは、気候工学シナリオをモデル化し、この技術による冷却から得られる作物生産の利益は、遮光による損害によって相殺されてしまうことを見いだした。今回の結果は、全球の農業生産や食料安全保障に対する気候変動の脅威は、硫酸塩エアロゾルを用いて太陽光を遮る気候工学では緩和できないと思われることを示唆している。
2018年8月23日号の Nature ハイライト
分子生物学:CPEB4がリスク遺伝子を調節する仕組み
構造生物学:Orcoのクライオ電子顕微鏡構造は昆虫嗅覚の基盤についての手掛かりをもたらす
量子物理学:プログラム可能な磁気格子としての量子プロセッサー
物性物理学:パターンの記憶には2つの秩序が必要
古生物学:真のカメ類はいつ出現したのか
微生物学:成体の腸が微生物相を獲得する仕組み
生物学的手法:RNAのスナップショットをつなぎ合わせて細胞系譜を示す
医学研究:ケトン食療法がある種の抗がん剤への応答を改善する可能性
分子生物学:IP6はHIV-1の集合と成熟を促進する