Nature ハイライト 量子情報:今、見ちゃいけない 2006年2月23日 Nature 439, 7079 量子コンピューターから答えを得る新しい方法が報告された。まず、量子コンピューターをコンセントにつなぎ、スイッチを入れる。やることはそれだけで、プログラムを実行する必要はない。運がよければ、とにかくこれで答えを手に入れることができるのだ。この方法はばかげていると思われそうだが、O Hostenたちはこれでうまくいくことを明らかにした。彼らは光ビームを使う実験装置を組み立て、光子(光の粒子)の量子状態により符号化した情報を使って量子計算を実行し、簡単なデータベース検索を行った。この実験では、グローバーの検索アルゴリズムとよばれるよく知られた量子計算アルゴリズムが実現された。重要なのは、実際にはその計算が行われないことである。その代わり、光を利用した量子コンピューターがとりうる状態を、計算が行われた状態を含めて、実際にはそれをまったく「見ていない」ようにして詳しく調べるというトリックを使っている。これによって、探している答え、すなわち探している項目がある場所が常に得られるとは限らない。しかし、場合によっては得られることがあるのだ。この一見無意味なふるまいは、「コンピューター」が量子法則に従って動くからこそ可能になる。量子力学系では同時に2つの状態が存在できる。量子コンピューターに処理能力が大幅に高められる可能性があるのは、このためなのだ。今回の場合なら、コンピューターはこのアルゴリズムが実行された状態とされなかった状態の両方をとることができるというわけである。このような状態の性質を詳しく調べることにより、アルゴリズムが実行されたならばそうなったであろう状態を、アルゴリズムが実行されなかった状態を観察するだけで再構成できたのだ。 2006年2月23日号の Nature ハイライト 宇宙:3つになった冥王星の衛星 考古:もっと急速だった現生人類のヨーロッパ移住 量子情報:今、見ちゃいけない 生態:生物多様性を増大させる寄生植物 進化:脊椎動物の進化再訪 − ヒトに近いのはナメクジウオよりホヤ 海洋生物学:日本のウナギの産卵場所がわかった 目次へ戻る