遺伝子の変異、つまりDNA配列の変化は進化の基盤であり、自然界の変動や病気の発生にきわめて重要だが、ゲノムで変異が起こる頻度を推定するのは非常に難しい。最近まで、変異は対象となる生物体の全体的な健康状態や機能に及ぼす変異の影響を手がかりにして間接的に調べられていた。また、完全に解明されている系統の生物を何世代にもわたって観察する必要があり、研究の制約となっている。D R Denverたちはこれらの問題を一挙に解決した。彼らは、実験に使われることが多く性質の解明が進んでいるが寿命の短い線虫で、約400世代についてDNAを直接調べ、変異を詳細に解析した。その結果は以下の2つの点で意外なものといえる。まず、変異の頻度がこれまでの推定値の10倍であることがわかった。また、ヌクレオチドが欠失する変異よりも、余分なヌクレオチドが挿入される変異の方がはるかに多かったのである。これは、欠失の方が挿入よりも多いという自然集団から得られた結果とは矛盾しており、自然選択が、大きすぎるゲノムから余分なDNAを取り除くのに一役かっていることを示している。