Nature ハイライト 生化学:ニコチンの二重生活 2009年3月26日 Nature 458, 7237 ニコチンは、嗜癖、つまりニコチン中毒を引き起こす力が極めて高いが、それは脳のアセチルコリン(ACh)受容体に高い親和性で結合することができるからだ。筋肉のACh受容体は脳の受容体とほとんど同じものだが、もし筋肉の受容体がニコチンにより同じような効率で活性化されれば、喫煙は激しい筋収縮を引き起こすだろう。このような事態が起こらないことは、薬理学における長年の謎だったが、今回、この2種類のニコチン受容体とニコチンとの相互作用の化学的性質が詳細に調べられ、謎が解かれた。ニコチン中毒の原因となるα4とβ2という受容体サブユニットへの結合には、水素結合の形成に加えて、ニコチンの正電荷と進化的に保存された特定のトリプトファン残基の間の強い陽イオン-π電子相互作用の両方がかかわっている。筋肉型の受容体もこのトリプトファンをもっているが、陽イオン-π相互作用が存在せず、水素結合もより弱い。これは、結合ポケットの全体的な形の差異によると思われ、差異は重要なトリプトファン残基の近傍にある単一の点変異と関連している。これらの結果は、分子レベルの謎を解いただけでなく、神経学的症状や禁煙に関して治療に使えると思われる新しいニコチン類似体開発のための指針ともなる。 2009年3月26日号の Nature ハイライト 進化:初期の硬骨魚類の姿 生化学:snurpがイントロンを切り出す仕組み 宇宙:風と共に去りぬ 物性:スピン起電力 地球:小プリニウスが見落としたもの 免疫:自然免疫系のセンサー 医学:骨吸収を抑える 生化学:ニコチンの二重生活 目次へ戻る