Nature ハイライト
微生物学:溶原性ファージがCRISPRの喪失を引き起こす
Nature 578, 7793
細菌の約60%のゲノムにはCRISPR–Cas免疫系が欠失しているという観察結果や、近縁の細菌株の間でも関連するcas遺伝子が非常に多様なことから、細菌集団ではCRISPR–Cas系の喪失と獲得が頻繁に起こっている可能性が示唆される。今回E WestraとA Chevallereauたちは、このような不均一な分布が生じる理由が、I型CRISPR–Cas系によるバクテリオファージの排除の効率が、溶原性ファージ(溶菌性と溶原性の生活環のどちらにも入れるファージ)の場合、厳密な溶菌性バクテリオファージに比べてはるかに悪いためであると推論している。これは宿主細菌にとって適応度のコストであり、細菌集団からCRISPR–Cas系が失われる原動力になる。ファージが抗CRISPR(acr遺伝子)を持っているとこの喪失効果がなくなることから、この遺伝子はファージにとってだけでなく、このような状況下では宿主にとっても有利に働くことが示唆される。また、この現象は自然界で広く見られる可能性があることも分かり、CRISPR–Cas系が細菌に不均一に分布している理由をこれで説明できるかもしれない。
2020年2月6日号の Nature ハイライト
惑星科学:彗星67Pにおける軌道に起因する水のサイクル
加速器物理学:高輝度ミューオンビーム
原子分子物理学:多価イオンによる量子計測
物性物理学:室温超伝導を求めて
材料科学:複合酸化物の積層
神経科学:神経回路の生化学的影響が社会的行動を駆動する
細胞生物学:ヒト脳発生のオルガノイドモデルには改善が必要か
微生物学:溶原性ファージがCRISPRの喪失を引き起こす
ウイルス学:潜伏中のSIVとHIVを再活性化する
がん:グリオブラストーマは自身のニューロン微小環境を作り直す
構造生物学:合成タンパク質の対称性