マイケル・ホワイト氏によるコメント(Nature アソシエートエディター)
人間社会と生態系機能を支える淡水の利用可能量は、降水の分布、降水後の地下水や地表水を経由した輸送、そして蒸発と蒸散に強く影響されます。降水量と降水時期を制御する重要な要因としては、全地球的な水循環、局所的な天気事象、そして人間活動が気候システムに及ぼす影響があります。
2008年11月8日(土)にブリティッシュ・カウンシル(東京)で開催された「Nature Café」では、こうした論点やその他の論点に検討が加えられました。自由な雰囲気でのプレゼンテーションとディスカッションを通して、パネリストと参加者は、水関連のさまざまな話題について話し合いました。そのなかで、水の全地球的側面と局所的側面、過去と将来の降水量の変化、人間社会と水の相互作用、水問題の理解や解決に技術が果たす役割といった重要なテーマが浮かび上がりました。
ここでは、テーマごとに、話し合われた内容を振り返ってみたいと思います。
水の全地球的側面と局所的側面
水と降水は、全地球的な観点と局所的な観点の両方でとらえることができます。全地球的にみた場合、熱帯域の降水量が多く、砂漠地帯の降水量は少なく、世界の多くの地域に雨季と乾季があります。しかし、人間社会にとって非常に重要な変化は局所規模で起きています。例えば日本では、ゲリラ豪雨の発生が、平均降雨量の長期変動と同じくらい重要なことかもしれないのです。これと同様に、局地的な干ばつの規模と時期は、多くの牧畜社会や農業社会にとって非常に重要です。したがって、水の利用可能量と降水量について考えるときに、平均降水量の全地球的パターンを理解するだけでなく、局所現象を測定、予測することも同じように非常に大切なのです。
過去と将来の降水量の変化
水の利用可能量と降水量、特に重要な局所レベルでの利用可能量と降水量を理解し、測定あるいはコンピューターシミュレーションによるモデル化を行うことはむずかしい課題です。降水は、気温と異なり、空間的にも時間的にも不規則に分布し、雲の発生と降水は、複数の経路によって発生する複雑な物理過程です。そのため、降水量に関する過去の変化と将来的な変化の可能性は、あまり明確になっていません。20世紀には、異なるデータセットを用いて、さまざまな降水変動に関する学説が登場しました。同様に、将来的な降水の変化を予測するために用いられる大循環モデル(GCM)も複数存在し、現在のところ、相互に一致しない点が多くみられます。将来的に発生する可能性の高い変化としては、極緯度地域での降水量の増加と極値降水量(集中豪雨、干ばつ)の増大が挙げられます。
人間社会と水
気候変動による将来的な降水量と水の利用可能量に関する予測は、気温上昇の予測ほどの確実性がないのはまぎれもない事実です。しかし、人的な水資源管理が変化への適応と変化の緩和に役立つ可能性があり、その可能性は、気温の変化の場合よりも高いかもしれません。現在の水資源管理を改善できるとすれば、限られた季節に利用できる水の管理の改善、かんがい方法の改善、利用可能量の減少が加速している「ブルーウォーター(湖沼や河川の水)」から「グリーンウォーター(土壌系、植物系内の水)」へのシフトが考えられます。全体としては、各地域の機関が水ストレスの管理能力と水ストレスへの対応能力を強化することが、重要な長期目標として挙げられました。
技術の役割
宇宙レーダーや地上レーダーを使って降水と地表水の成分を監視できるリモートセンシング装置のような高度測定ツールや、日本をはじめ各国で開発された最先端の水循環モデルの登場で、降水量と水の利用可能量の測定能力が高まっています。しかし、リモートセンシングはどうしても技術的問題を伴うため、降水量を測定する雨量計といった単純な技術が今後も重要性を持ち続ける、とパネリストたちは強調しました。また、パネリストたちは、局所的な水資源問題に対する技術的解決策を計画、実施する際に、それぞれの地域の社会文化的環境を理解する必要があることも強く主張しました。
「WATER UNDER PRESSURE」日本語版には、水問題の現状と将来の展望に関する記事や、上記 Nature Cafe のより詳しいレポートが掲載されています。ぜひご覧ください。