Nature ハイライト 遺伝:危険な遺産 2006年7月6日 Nature 442, 7098 哺乳類のゲノムには、過去数千年にわたって、さまざまなレトロウイルス(HIVやラウス肉腫ウイルスといった、一本鎖RNAとそれを基にDNAを合成するための逆転写酵素をもつウイルス)が組み込まれてきた。そのほとんどは活性を失っているが、コアラレトロウイルス(KoRV)のように、比較的完全な形を保ち、最近になってゲノムに入り込んだと思われるものもある。野生コアラのKoRV保有率に関する調査から、このウイルスは挿入され、今でも感染力をもつ内在性レトロウイルスであることが明らかになった。しかし不思議なことに、このウイルスをまったくもたない個体もあり、また、南オーストラリア沖の隔絶されたカンガルー島に生息する個体群はすべて、このウイルスをもたない。そのため、KoRVは外来性遺伝因子から内在性遺伝因子へと移行する真っ最中にあると思われる。これにより注目すべき進化的出来事を垣間見ることができる。しかし、KoRVは存続基盤が脆弱なこの固有種に腫瘍を発生させることが知られているため、これは生物保全上の重要な問題でもある。 2006年7月6日号の Nature ハイライト 疫学:ナイジェリアの鳥インフルエンザ 工学:結晶のマッピング 免疫:トラブルを探して回る 細胞:分裂を統治する 遺伝:危険な遺産 地球:スローな地震活動 地球:強いところが弱点? 細胞:ヘルペスウイルスの潜伏 細胞:ヒストンコードの解読 目次へ戻る