Nature ハイライト

進化遺伝学:鱗翅類の外見に関わるcortex遺伝子

Nature 534, 7605

オオシモフリエダシャクの標準的な淡色型(上)と、産業革命期に煤煙による生息環境の暗化で急増した暗色型(下)。
オオシモフリエダシャクの標準的な淡色型(上)と、産業革命期に煤煙による生息環境の暗化で急増した暗色型(下)。 | 拡大する

Credit: Ilik Saccheri

オオシモフリエダシャク(Biston betularia)の体色が黒っぽくなる「工業暗化」と呼ばれる現象は、進行中の生物進化の例として教科書でも紹介されている。しかし、暗色型(carbonaria)変異体の遺伝学的背景はいまだに明らかになっていない。I Saccheriたちは、これまでの研究で、この現象に関わる遺伝子の位置が、13個の遺伝子を含む約400キロ塩基の領域内にあるというところまで特定していた。彼らは今回、これに基づいて、暗化を引き起こした事象が、cortexと呼ばれる遺伝子の第1イントロンへのクラスII転位因子の挿入であることを突き止めた。統計的推論から、この多型が出現したのは産業革命の真っただ中の1819年前後であることが分かった。これとは別にN Nadeauたちは、ドクチョウ属(Heliconius)のチョウの色素沈着パターン形成にもcortex遺伝子の発現が関与していることを報告している。どうやら、この遺伝子は、体色を左右する鱗粉細胞の発生速度の制御にも使われているようである。これら2つの研究結果を総合すると、cortex遺伝子は、色や紋様の変動に自然選択が働く際の主要な標的として、鱗翅類で広く保存されていると考えられる。

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