量子物理学:極低温気体における普遍性の探索
Nature 563, 7730
孤立した量子多体系の非平衡ダイナミクスの解明は、物性物理学、高エネルギー物理学、宇宙論を含む物理学のいくつかの研究分野に関連している。この課題は、平衡統計力学が適用できなくなるため、困難なものとなる。同時に、これは新しい物質相の発見につながる可能性があるので、非常に期待されてもいる。非平衡不動点は、こうした複雑なダイナミクスを解明するカギの1つである可能性があり、検討している物理系のダイナミクスを初期条件に依存しない普遍関数によって記述できる。今回、3つのグループが、極低温気体においてそうした「普遍性の手掛かり」を実験的に観測したことを報告している。M Prüferたちは、クエンチした強磁性スピノール・ボース・アインシュタイン凝縮体に非平衡不動点が存在することを示す証拠を堤示し、このプレサーマル不動点が、出現した準保存量とどのように関係するか論じている。J Schmiedmayerたちは、同様の結論を報告しているが、Prüferたちとは非常に異なる系を調べている。その系では、急冷クエンチによって三次元ボース気体が変化して一次元準凝縮体になり、熱化してこの最終状態になる前に、無次元の普遍関数で記述される平衡から外れたスケーリング領域を通って、準一次元ボース気体が発展する。Z Hadzibabicたちは、異なるタイプの普遍性に注目し、ユニタリー性へクエンチした縮退ボース気体と熱的ボース気体のプレサーマルダイナミクスを調べている。縮退ボース気体では、凝縮割合が普遍的に非ゼロのプレサーマル状態の出現を示すクエンチ後の普遍的なダイナミクスが観測された。一方、熱的ボース気体では、その力学的特性と熱力学的特性を無次元の普遍関数によって表せることが見いだされた。これら3つの研究は、平衡から外れた量子系の多体ダイナミクスにおける普遍性を初めて実験的に調べたものである。
2018年11月8日号の Nature ハイライト
免疫遺伝学:遺伝子の分岐と自然免疫
生物物理学:生物学における能動的超弾性
構造生物学:Tc毒素の活性化機構
量子物理学:極低温気体における普遍性の探索
生化学:グリコシル化の理解を深める
地質学:地球最古の生命の痕跡への疑義
神経科学:脳でのタンパク質翻訳
幹細胞:骨を長くする
構造生物学:リガンド結合によって構造が複雑化するセロトニン受容体