おぼつかない再出発
原文:Nature 491, 301-302 (号)|doi:10.1038/491301b|A shaky restart
国民が納得する原子力政策を示すため、日本政府は福島原発事故からさらに教訓を学ぶべきである。
2011年3月の津波に続いて発生した原発事故は、日本の原子力安全規制に重大な不備があることをあらわにした。教訓を得た日本政府は安全性を高く評価し始め、懐疑的な世論に対して同じ過ちを繰り返さないということを納得してもらうために可能なことを全て行なっている。そう認識していたものの、政府の課題はまだたくさんあることが最近判明した2つの事実により明らかになった。
以前の原子力規制体制で行なっていた間違いを正す目的で、原子力規制委員会(NRA)が発足した。最初の任務は、原子炉を運営するにあたり新しい安全基準を策定することだった。新安全基準を検討するチームは6人の専門家で構成されており、2012年10月25日に最初の作業会合を行なった。検討チームは原子力規制委員会への報告書をまとめ、安全基準の改善を目指して2013年春にパブリックコメントにかけ、2013年7月には公布・施行を目指している。
しかし先週、6人の専門家のうち4人が、原子力関連企業から資金提供や寄付金を定期的に受け取っていたと国内メディアで報道された。例えば名古屋大学教授の山本章夫氏は、過去3年間に渡り関西電力関連会社の原子力エンジニアリングを含む原子力関連企業から少なくとも50万円以上を受け取っていた。山本氏が何か過ちを犯したということを示唆しているわけではないが、同氏がさらに同期間で原子力関連機関から受けた報酬は2700万円にのぼる。その上、原子炉を建設している三菱重工からの資金額は不明である。
この報道を受けた原子力規制委員会は検討チームからの報告書に関し、5人の委員が規制を決定するうえでの参考資料として使用するだけであるとし、検討チームを擁護した。(各委員たちの原子力業界との関係は検討チームメンバーとは異なる。)委員会によれば、業界とのつながりが皆無の専門家を探そうとすれば、候補はゼロになってしまう。
確かにこれは公平な点であり、チームメンバーが報酬の公開を求められていた事実は透明性を高く評価していることの表れである。しかし、報告書を単に参考資料として使用するだけであると述べてその重要性を軽視するのは、説得力に欠ける。
福島原発事故の対応をめぐる騒動の発端は、原子力業界との癒着が強い規制者が利害関係の対立から安全性よりも経費削減を重視する結果になったと世論が認識している点にある。そうした批判に対応する目的で発足した規制委員会は、田中俊一委員長を含め以前の規制委員会からの人材の多くが新しい組織へ移動しただけであると酷評されている。多くの大衆デモにも関わらず、日本の規制策定者たちは、利害関係の対立をめぐって判断を誤る傾向にある。たとえそうでなくても、国民は不信感を募らせているのだ。
日本は原子炉の安全性を新たに認識し危機を乗り切るはずだった。
同様に、2012年7月、政府が敷地周辺の地質調査を充分に行うことなく、運転を停止していた原子力発電所のうち2機を再稼動させてしまったことも問題である。先週行なわれた2回目の会議では、非常時に原子炉を冷却させる目的で使用する海水取水路の下を走る断層が活性か否かという疑問に対し、原子力規制委員会の分会は回答することができなかった。
問題は、断層が地滑りにより形成されたものなのか、より危険な深部で形成されたものか否かということである。規制委員会は、発電所を所有している関西電力に対し、溝を掘って現地の地質を詳細に調査するよう命令した。この作業には2ヶ月もかからないはずだが、発電所内の既存施設が邪魔となって作業が複雑化し、費用もかさむ。
この断層からの危険性が非常に低いとしても、多くの人同様、批評家は発電所周辺の断層により引き起こされる地震の危険性も指摘する。潜在的な津波の規模や福島県第一原子力発電所で発見されたのと同じような構造上欠損に関しては、不明点が多い。
国内では原発再稼動に反対する大規模なデモが行なわれ、過去数十年間で最大数の市民が参加した。日本は、原子力発電に頼らなくても短期間は乗り切ることができるということを既に証明している。原発再稼動の前には、一部の科学者が地震断層をめぐる疑問を指摘すると同時に対処方法を提案していた。日本は原子炉の安全性を新たに認識し、安全性に関して人々を説得する必要性をより良く理解し、福島原発の危機を乗り越えるはずであった。しかし、快調な滑り出しを見せたとはいえない。
(翻訳:野沢里菜)