地震学、再建への道 - より大きな揺れに耐えられるビルの設計
原文:Nature 473, 146–148 (号)|doi:10.1038/473146a|Rebuilding seismology: Design buildings for greater shakes
東日本大震災から約3か月半。5人の日本人地震学者が、今回の地震と津波から得た教訓について考察する。
5人の日本人地震学者の考察
鷺谷威:すべてのデータを考え合わせる|金森博雄:想定外の事態に備える|八木勇治:海底観察を強化|山田真澄:警報システムのさらなる改良|Jim Mori:より大きな揺れに耐えられるビルの設計
日本の地震学者たちは、東日本大震災の不意打ちを食らい、驚愕し、そして落胆した。日本の沈み込み帯に沿ったプレート境界地震の発生箇所と規模を大まかに予知できると考えていたからだ。今回の地震により、過去約400年分の歴史的地震記録は、地震活動が非常にさかんな地域でも、巨大地震の発生時期の指針とするには短すぎることが判明した。われわれは、地質学データを再検討して、今回の地震に匹敵するマグニチュードの地震を見つけ出さなければならない。
地震学では一般に、将来地震が発生する確率は、主として断層で繰り返し発生する地震イベントの統計に基づいて予測する。
けれども今回の地震は、まれにしか発生しない巨大地震が、小規模な地震イベントと同じ断層帯で起こりうることを示しており、過去の地震イベントの統計から得られる情報だけでは不十分なことを語っている。巨大地震についてより深く理解するには、まず、断層付近の局所的な応力の蓄積を測定し、地震が発生するときの絶対応力と絶対ひずみのレベルを見積もることである。
例えば、応力はボーリング孔の中で直接測定することができるし、摩擦の強さは大地震後の温度測定から推測できる。さらに、広域応力場の向きは、GPSアレイが記録する地面の変位のパターンから決定することができる。
こうした技術を用いれば、断層がどの程度破壊に近づいているかを特定し、地震の危険をより直接的に見極められるようになるかもしれない。間近に迫った地震の規模を特定するのは困難だろうが、最大でどの程度の規模になるかは、応力の測定値から推測できるかもしれない。現在、3月の地震の前に東日本がどのような圧力を受け、ひずみを生じていたのかを明らかにしようと、この地域の広域変形の調査が進められている。
さらに、巨大地震による強い揺れの評価は、地震に対する世界の安全基準の確立にも非常に重要な問題である。過去の地震による揺れの正確な長期記録は存在しないが、この数十年間の測定技術の向上により、予測される揺れの激しさはだんだん大きくなってきている。われわれがすでに最悪の事態を経験したとは考えにくい。防災計画においては、より大きな揺れ、特に、数秒周期の長周期震動の可能性を考慮しなければならない。現代の都市で高層建築を安全に設計するためには、こうした情報が必要である。
(翻訳:三枝小夜子)
本記事は、Nature ダイジェスト 2011年7月号に掲載されています。