予想外の場所で発生した巨大地震
原文:Nature 471, 274 (号)|doi:10.1038/471274a|Giant shock rattles ideas about quake behaviour
ほとんどの専門家は、日本の三陸沖の地震帯がこれほど大きな地震を引き起こすとは思っていなかった。
ノースウェスタン大学(イリノイ州エバンストン)の地球物理学者で、大地震と津波の研究をしている Emile Okal は、「今回日本で発生した巨大地震は、われわれ専門家の理解がまだまだ不足していることを痛感させるものでした」と言う。3月11日の地震のマグニチュードは9.0で、日本の観測史上最大のものだった。震源は三陸沖だったが、この場所の地震帯に巨大地震を引き起こす力があると思っていた専門家はほとんどいなかった。Okal らは、今回の地震が多くの専門家の予想をはるかに上回ってしまった理由と、それが日本やほかの国々の地震の危険性について何を意味しているかを知りたいと願っている。
今回の地震は、東日本が載っているオホーツクプレートの下に太平洋の海底がもぐり込む帯状の領域に沿って発生した(『衝突帯』参照)。こうした過程は「沈み込み」と呼ばれ、1960年のチリ地震(マグニチュード9.5)や2004年のスマトラ島沖地震(マグニチュード9.1)など、世界最大級の地震を引き起こしてきた。地球物理学者たちは、巨大な沈み込み帯地震は、新しい海洋地殻がマントルに無理やりもぐり込んでいく場所でしか発生しないと考えていた。古い地殻は低温で密度が高く、下にもぐり込むのがはるかに容易であるため、あまり大きな地震は起こらないと考えていたのだ。そして、日本の東北沖の海洋地殻は、約1億4000万年前に形成された、非常に古いものである。
仙台周辺の歴史は、この仮説を裏づけているように見えた。カリフォルニア工科大学(同州パサデナ)の地震学者金森博雄(かなもりひろお)は、「地震活動はありましたが、本当に大きな地震はなかったのです」と言う。この数百年間、三陸沖の沈み込み帯ではマグニチュード8クラスの地震は何度かあったが、その30倍のエネルギーを放出するマグニチュード9クラスの地震は一度もなかった。
そんな歴史があったため、日本の地震学者たちは、仙台周辺で巨大地震が起こるとは考えていなかった。三陸海岸は日本で最も津波対策が進んでいる地域の1つで、沿岸のほとんどに高い堤防が築かれていたが、今回の津波には小さすぎた。高さ13~15mの津波が襲いかかり、この地方の海岸線に壊滅的な被害をもたらし、原子力発電所事故の誘因となったのだ。
実は、仙台の周辺地域で巨大地震が発生する可能性を示唆する手がかりはあった。Okal によると、スマトラ島沖地震は、「巨大な沈み込み帯地震は新しい海底でしか発生しない」とする仮説に疑問を投げかけるものだった。この仮説が正しいならば、古い地殻が沈み込んでいるスマトラ島沖で巨大地震が発生するはずがないからだ。また、日本全国で近年実施された測地調査の結果は、仙台の周辺地域が、万力で締めつけられるように、運動するプレートに圧迫されていることを示していた。その撓曲は、太平洋プレートが、日本列島の下になめらかにすべり込むどころか、これに激しく衝突して、地殻をひずませていることを示唆していた。
地殻のひずみは地震でしか解放されない。そして、三陸沖でのひずみの蓄積は非常に早かったため、近年発生した地震の規模や頻度では十分にそれを解放することができなかった、とカリフォルニア工科大学の地球物理学者 Thomas Heaton は言う。残っているひずみを解放したのが、3月11日の地震だった。Heatonによると、この地震は非常に大きかったが、蓄積されたひずみのすべてが解放されたわけではないかもしれないという。「マグニチュード9の地震が発生した今でも、この場所にはまだ謎が残っています」。
Okalは、三陸沖の沈み込み帯にこれだけ大きな地震を引き起こす力がたまっていたのだから、同じように古い海洋地殻があるほかの地域にもその可能性はあると指摘し、トンガとカリブ海北東部をもっとよく調査しなければならないと主張する。これらの地域には、めったに発生しない巨大地震の手がかりが隠されている可能性があるからだ。同じものは、三陸沖にもあったはずだ。
記録によると、仙台は西暦869年にも大津波に襲われている。東北大学(仙台)の地球科学者である箕浦幸治(みのうらこうじ)らは2001年に、さらに古い時代の2つの津波堆積物の観察にもとづき、仙台は800~1100年ごとに大津波に襲われているらしいと結論づけた(K.Minoura et al.J.Nat.Disaster Sci. 23,83-88; 2001)。彼らはその論文に、最後の大津波が襲来したのは9世紀だったので、「仙台平野が大津波に襲われる可能性は高い」と書いていた。
(翻訳:三枝小夜子)
この記事は、Nature ダイジェスト 2011年5月号に掲載されています。