苦悩の心中
原文:Nature 493, 271 (号)|doi:10.1038/493271a|Troubling thoughts
福島県の避難者に精神面の治療を長期的に施すことは、今後の災害の生存者にとっても助けとなるだろう。
自然災害は、強烈な印象を与える。吹き付ける風、海岸に打ち寄せる波、焼け果てた建物。一方で、最も深刻かつ長期的な影響のうち目に見えないものもある。被災から何年経過しても、被災者たちは不安感、うつ病、心的外傷後ストレス障害(PTSD)に悩まされることもある。帰宅できなかったり、自宅を建て替えることができなかったりする場合はなおさらだ。
福島県東部の何千人もの住民がまさにこの状況に陥っている。2011年3月に福島第一原子力発電所の3機の原子炉でメルトダウンが発生したため、自宅から避難せざるを得なかったのだ。「福島:放射能の恐怖の影響」で触れているように、避難者の多くが長期的な将来に関する不安感やうつを訴えている。研究者たちは、避難者が不安感やPTSDに関連した症状の悪化に苦しんでおり、薬物乱用やその他の問題が発生するのではないかと恐れていることを明らかにしている。
福島県東部の何千人もの住民がまさにこの状況に陥っている。2011年3月に福島第一原子力発電所の3機の原子炉でメルトダウンが発生したため、自宅から避難せざるを得なかったのだ。「福島:放射能の恐怖の影響 」で触れているように、避難者の多くが長期的な将来に関する不安感やうつを訴えている。研究者たちは、避難者が不安感やPTSDに関連した症状の悪化に苦しんでおり、薬物乱用やその他の問題が発生するのではないかと恐れていることを明らかにしている。
健康調査の目的は、ただこの事故の影響を記録するだけでなく、避難者を支援することにある。カウンセラーたちがメンタルヘルスに関連する問題を話してもらおうと約5,000人を対象にフォローアップの電話をかけている。残念ながら、電話だけでは十分ではない。調査自体の回答率は50%だったが、フォローアップの電話に答えた人たちはわずか数分間の会話の後に電話を切ってしまう。自分たちの抱える問題の詳細を話したがらないか、話せないのだ。
県民健康管理調査に関わっている研究者たちは、状況の改善により貢献したいと考えている。対面カウンセリングの実施と、カウンセリングセンターの開設を望んでいる。しかし、資金が十分でなく調査だけで既に予算を超えている。現在、政府から割り当てられた金額の2倍が費やされており、県行政と政府間での予算をめぐる対立は更なる予算削減を招く可能性がある。現在の不安定な資金状況では、長期のスタッフを採用することができないどころか、避難者のメンタルヘルスの問題に関するパンフレットを印刷することすら不可能だ。
研究者たちは、様々な災害がメンタルヘルスに与えた影響を記録してきたが、問題の対処方法に関する資料は乏しい。
福島県にはメンタルヘルスの問題の対処方法を学べる絶好の可能性があるものの、これでは残念な状況である。研究者たちは、2005年に発生したハリケーン・カトリーナや2010年のハイチ地震からイスラエル・パレスチナ間の紛争にいたるまで様々な災害がメンタルヘルスに与えた影響を記録してきたが、問題の対処方法に関する資料は乏しい。福島県の避難者は、他の災害の被災者と様々な意味で類似している。ほぼ全員が、診断の難しい潜在的な症状に苦しんでいる。被災者の数が多すぎると、1対1の治療が実践的でなくなってしまう。そして悲惨な現況のため、多くの避難者が自治体を非難し不信感を募らせており、状況は複雑になっている。多くの避難区域と異なり、福島県の住民は教育を受けており、状況を詳細に記録し連絡を取ることが可能である。こうした避難者を長期的に観察・治療することにより、様々なことを学べる可能性がある。
そして、避難者には精神面での助けが必要である。その他多くの災害の生存者とは異なり(メルトダウンを引き起こした津波の被災者も含む)、福島原発の被災者たちは被ばくへの恐れにおびえながら生活している。原発事故が原因で自身や子供たちが病気になるのではないかと心配しており、彼らが抱える不安感が高まる可能性がある。日本人が生涯で何らかのがんになる確率は約50%であり、原発の避難者たちはがんと原発事故の関係性を懸念することだろう。1986年のチェルノブイリ原子力発電所事故に関する研究では、避難した母親たちが何十年にも渡り子供の健康状態について懸念しており、不安が払拭されることはない可能性もあると報告されている。
そうしたことを考えたとしても、県民健康管理調査を継続させ、さらなる支援を政府から提供してもらう価値がある。また、調査を行なった科学者たちは、国外の科学者と継続的に協力し今回の経験から苦労して得た教訓を世界と共有するべきである。
(翻訳:野沢里菜)