Nature ハイライト
がん:低酸素状態による遺伝子抑制
Nature 537, 7618
腫瘍のエピジェネティクスは、その起源となった組織とは異なり、がん抑制遺伝子のプロモーターでDNAのメチル化が増加していることが多いが、このような変化が起こる仕組みについてはほとんど分かっていない。今回、D Lambrechtsたちは、多くの固形腫瘍で一般的に見られる腫瘍の低酸素状態が、5-メチルシトシンの酸化を介してDNA脱メチル化を触媒する酸素依存性TET(ten-eleven translocation)酵素群の活性を低下させると報告している。彼らは、酸素がTET活性にとって重要なコファクターであり、低酸素状態によるTET活性の低下が、in vitroでの遺伝子プロモーター、および低酸素状態の腫瘍でのがん抑制遺伝子の高メチル化を亢進させることを明らかにした。著者たちは、腫瘍の低酸素状態がTET活性を直接低下させることでDNAのメチル化が起こり、遺伝子発現が抑制されるのではないかと考えている。つまり、DNAメチル化を抑制する、あるいは腫瘍への血液供給を回復させることで、高メチル化を抑えられれば、有効な治療につながるかもしれない。
2016年9月1日号の Nature ハイライト
環境科学:アメリカ大陸への人類移動は海沿いの経路で
発生生物学:発生中の多能性幹細胞における種ごとの違い
がん:低酸素状態による遺伝子抑制
惑星科学:ロゼッタが一掃きした彗星の塵
量子光学:除外点から生じるエキゾチックな成果
気候科学:南極の氷が海洋を淡水化する
生態学:種の共存の根源
神経科学:セロトニンは不安と恐怖学習を引き起こす
がん:進行乳がんに見られる2つの細胞集団
構造生物学:カルシウムチャネル遮断薬の構造