Volume 443 Number 7114

News & Views

ミツバチゲノムの解読:社会構造の青写真

How to make a social insect p.919

セイヨウミツバチ(Apis mellifera)のゲノム全塩基配列が、国際ミツバチゲノム解読コンソーシアムから公表された。セイヨウミツバチは、授粉媒介者として地球の生態系に不可欠な存在であり、社会的行動の重要なモデル動物でもある。ほかの昆虫に比べると、ゲノムに含まれる先天性免疫関連遺伝子、クチクラ形成タンパク質遺伝子、味覚受容体遺伝子の数が少ないが、嗅覚受容体遺伝子は多く、また花蜜や花粉の利用にかかわる新規遺伝子も見つかった。集団遺伝学的研究からは、アフリカ化ミツバチは交雑によってアメリカ大陸に広まったのか、それとも原産種に取って代わったのかどうかの手がかりが得られた。News and ViewsではE O Wilsonが、このゲノムに、「ミツバチを高度な社会構造をもつ昆虫へと向上させた」重大な生物学的変化がどのように表れているかを考察している。表紙は、カタクリの仲間に止まるミツバチ(Carrol W Perkins/photolibrary.com)。

doi: 10.1038/443919a

気候:砂が示す海水温の変遷

p.920

微晶質石英を含んだ密度の高い珪岩であるチャートは、地球上で最もよい状態で保存されてきた海洋堆積物の1つであり、その形成年代は35億年前の始生代初期から現在にまで及ぶ。チャートに含まれるケイ素同位体の組成は地質年代とともに系統的に変動し、酸素同位体の組成と相関があることが、新しいデータから示された。これはつまり、チャートの同位体組成がチャートの形成温度を記録している可能性があるということだ。ケイ素循環についての数値モデルを用いると、このデータから得られる同位体比曲線から、先カンブリア時代の海水温度変動の珍しい記録が得られ、35億年前から8億年前の間に海水温度が約70℃から約20℃へと変化したことが示された。

doi: 10.1038/443920a

生態:究極のアウトソーシング

p.925

Olavius algarvensisは、地中海のエルバ島付近の浅い砂地の海底にみられる海生貧毛類(環形動物のミミズの仲間)である。驚くべきことに、この動物は口や胃、腸ばかりか腎管(腎臓に似た器官)すらもたない。消化器系の喪失がみられる動物はほかにもあるが、共生に適応して排泄系を退化させてしまった宿主動物はこれだけである。このほど、O. algarvensisの体内に存在する共生細菌群集の構成が遺伝子レベルで確認された。メタゲノム解析によって、宿主に不可欠な生理作用のうち、実に多くのものが共生生物に代行されていることが明らかになった。

doi: 10.1038/nature05208

地球:湿気が増えると電気伝導度が上がる?

p.927

地球マントルの粘性や融点といった性質は、そこにある水の量に強く影響される。しかしながら、マントルの含水量を決定することはいまだにむずかしい。カンラン石鉱物の水和は、アセノスフェア(地殻と上部マントルの下にある変形しやすい層)の電気伝導度が高いことの原因だと考えられてきたが、そのような鉱物に対する水の影響、すなわち水素が取り込まれることによる影響は実験的に測定されたことがなかった。今回、2つのグループが、カンラン石の電気伝導度に水素が及ぼす影響について実験結果を報告している。両グループは共に、少量の水素が電気伝導度を急激に増加させることを見いだしたが、マントルで観測された電気伝導度がこのような水和で説明できるかどうかについては、結論が一致していない。このような不一致の背景にある要因を決めるため、さらなる研究が必要なのは明らかである。

doi: 10.1038/443927a

細胞:角膜に血管が存在しない訳

p.928

体内の組織でその中を血管が通っていないものはわずかしかないが、角膜はその1つである。血管の存在しない孤立した場所である角膜は、がん、関節炎、アテローム性動脈硬化症、糖尿病などの病的な血管新生によって悪化する疾患のための抗血管新生療法のテストに使われることが多い。角膜を取り囲む組織には血管が非常に多いため、角膜の血管の欠如はとても目立つ。さらに、角膜には強力な血管新生分子VEGF-A(血管内皮増殖因子)が多量に含まれることがわかって、この特徴はもっと注目すべきものとなった。そして今回、可溶性VEGFR-1として知られるVEGF-Aのトラップ分子も角膜に存在し、角膜に血管が存在しないのはこの分子の働きだけによるものであることがわかった。この発見は、薬剤設計の観点から重要となりそうだ。血管がある角膜をもつことが知られている生物は、マナティー、変異マウス、およびPax6に変異がある無虹彩症の患者の一部などごく少数であるが、これらがすべて角膜の可溶性VEGFR-1を欠いていることは興味深い。

doi: 10.1038/443928a

Articles

生態:微生物共同体のメタゲノム解析から得られた 共生に関する考察

Symbiosis insights through metagenomic analysis of a microbial consortium

doi: 10.1038/nature05192

遺伝:セイヨウミツバチのゲノムから得られる社会性 昆虫についての考察

Insights into social insects from the genome of the honeybee Apis mellifera

doi: 10.1038/nature05260

生化学:CCA 配列付加反応における動的変化の完全な 結晶学的解析

Complete crystallographic analysis of the dynamics of CCA sequence addition

doi: 10.1038/nature05204

Letters

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