Nature ハイライト 進化:寿司因子 2010年4月8日 Nature 464, 7290 ヒトの腸内微生物叢が果たしている有益な役割の1つは、ヒトのゲノムに存在しない消化酵素の提供である。例えば、進化の過程を通じてずっとヒトの食料となってきた陸上植物に含まれる多糖類は、腸内で糖質関連酵素(CAZyme)によって分解されるが、この非常に特異性の高い酵素の多くはバクテロイデス類(Bacteroides spp.)に属する細菌類によって提供される。だが、日本食によく登場するノリ、アオサ、ワカメといった海藻類に作用する腸内酵素については、ほとんど知られていない。今回、アマノリ(Porphyra)の仲間の海洋性紅藻の硫酸化多糖類を消化するCAZymeが、バクテロイデス類の海洋細菌で見つかった。ゲノムデータのマイニングから、意外にも、この酵素は日本人の腸内細菌に存在するが、北米人のそれには存在しないことが明らかになった。このことは、海洋環境に生息する細菌から日本人にみられる腸内細菌であるBacteroides plebeiusへと、進化の過程で比較的最近に、遺伝子伝播が起こったことを示している。アマノリの仲間の海藻は、ノリとよばれて伝統的に寿司の材料として使われてきた。このことから考えると、滅菌されていない食物との接触が、腸内細菌叢が多様なCAZymeをもつに至った一般的な要因なのかもしれない。 2010年4月8日号の Nature ハイライト 物理:量子スピン液体の現れる条件 生理:がん細胞を生むニッチ 細胞:ゲノムの安定性 宇宙:遠方の星食を垣間見る 物理:メムリスターによる論理演算 気候:放牧はN2Oの放出を減少させる 考古:3種の人類が共存していた 遺伝:イヌの古い品種、新しい品種 進化:寿司因子 目次へ戻る