Nature ハイライト
統計物理学:記憶の飛んでいない酔歩者の統計
Nature 534, 7607
マルコフ性を満たす確率過程、すなわち、将来の状態が現在の状態にのみ依存し、過去の状態には依存しないという意味で記憶のない過程は、比較的よく理解されている。さまざまな重要な特性を表す厳密な式、例えば、反応物質の拡散を記述する式が、この仮定の下で開発されている。しかし、マルコフ過程ではうまく記述できない過程は多数あり、非マルコフ理論の定式化が難しいことも分かっている。今回、O Bénichouたちは、非マルコフ過程の重要な特性、すなわち平均初到達時間(初到達時間とは、閉じ込め領域中の目標点に酔歩者が初めて到達するのにかかる時間)を計算する理論的枠組みを開発した。そして、その結果を数値シミュレーションと比較して、テロメアの運動やトレーサーの拡散などの多くの重要な過程を、この枠組みでうまく記述できることを確かめた。初到達時間の完全な統計を理解するといった、この理論の多くの拡張はまだ考え出されていないが、今回の結果は非マルコフ過程の厳密な理論的記述に向けた大きな一歩である。
2016年6月16日号の Nature ハイライト
幹細胞:タンパク質合成と幹細胞性
がん:p53とc-Myc経路の両方を標的にする
構造生物学:膜タンパク質の構造を脂質ナノディスクを使って保持する
地形学:ばらばらにならない彗星67Pの核
統計物理学:記憶の飛んでいない酔歩者の統計
材料科学:強誘電複合酸化物のモデル化
テクトニクス:南海トラフ地震発生帯
幹細胞:繊維芽細胞からニューロンへの再プログラム化
がん免疫学:抗PD-1/PD-L1抗体療法に対する反応性の診断マーカー
がん:膵臓がん治療の標的となるMusashiタンパク質
構造生物学:アミノ酸/代謝産物排出体の構造