Nature ハイライト

海洋科学:小氷期以降の大西洋の鉛直循環の弱化

Nature 556, 7700

大西洋の南北方向の鉛直循環(AMOC)は海洋の主要な循環パターンで、地球の気候変動の大半と密接に関連している。幅広い研究によって、AMOCが過去数十年において弱まってきたことが示唆されているが、AMOCは内部変動が大きいためにその変化を検出するのは難しいことを示唆する研究もある。今回2つの論文では、近年の変化が長期的な自然変動の一部なのかについて調べられた。D Thornalleyたちは、気候シミュレーションと古気候記録によって裏付けられたAMOCの強さに関する記録を提示し、AMOCは150年前の小氷期終了時に著しく弱まり、その後ほぼ安定したままであることを示している。一方、L Caesarたちは、亜寒帯北大西洋とメキシコ湾流の海面水温の観測結果を用いて、AMOCの変動のロバストな指標として解釈し、1870~2016年のAMOCを再構築した。ばらつきはかなり大きいが、現在のAMOCが17スベルドラップ(1スベルドラップは、100万m3 s−1)であるのに対し、1950年代以降にAMOCが約3スベルドラップ弱まっていることが分かった。この2つの研究は相反しているように見えるが、Thornalleyたちは19世紀半ば頃の弱化に注目しており、Caesarたちの記録が始まる少し前である。研究方法や調べた海域も異なっており、対照的な手法によって得られた結果の比較の難しさと、AMOCの変動の微妙な性質が浮きぼりになっている。Caesarたちが提案した弱化は、人間活動の役割と一致するが、自然変動に起因している可能性もある。

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