Nature ハイライト

ウイルス学:アルファウイルスnsP1のキャップ形成孔は膜に結合したウイルス複製工場のゲートである

Nature 589, 7843

コロナウイルスやフラビウイルス、アルファウイルスのような一本鎖プラス鎖RNAウイルスは、宿主細胞内にウイルスが作り出した膜性細胞小器官の内部で転写と複製を行う。このような細胞小器官を形成するためにウイルスが行う宿主細胞膜の改造は、ウイルスの複製複合体の膜への結合やRNA合成と共役して起こる。ウイルスが形成するこのようなニッチは、ウイルスRNAの合成に使う代謝産物やタンパク質の濃縮を可能にし、また細胞の自然免疫系によるウイルスRNAの検出を防いでいる。今回我々は、アルファウイルスの一種であるチクングニアウイルスのタンパク質nsP1(non-structural protein 1)のクライオ電子顕微鏡構造を明らかにした。このタンパク質は、RNAキャップの形成とウイルス複製装置の膜への結合に関わっている。今回明らかになったのはこの酵素の活性型の構造で、環状の十二量体が、膜を貫通せずに1か所だけで膜に結合する単地性の結合を形成している。この構造から、このキャップ形成酵素の膜への結合、オリゴマー化、アロステリック活性化が共役する際の構造基盤が明らかになった。化学量論的性質(1個の複合体中に活性部位が12個ある)から、このウイルス複製複合体はRNA合成反応機と見なすことができる。複合体の環という形状は、ウイルスの膜性細胞小器官への接近を制御し、正しくキャップが形成されたウイルスRNAだけが間違いなく放出されるようにする役割を担っていることを意味している。今回の結果は、一本鎖プラス鎖RNAウイルスの複製装置の膜への結合について高分解能での詳細な情報をもたらすもので、細胞膜上でのウイルス複製機構のさらなる解明と抗ウイルス薬の開発に道を開く。

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