Nature ハイライト

システム生物学:ノイズの功罪

Nature 467, 7312

均質な環境に存在する遺伝的に同一な細胞でも、互いに全く異なる挙動をすることがあるが、それは各細胞の遺伝子の発現量や活性に、不可避でランダムな揺らぎ、すなわち「ノイズ」が広く存在するからである。ノイズは、信頼性の高い遺伝子回路を作る場合には邪魔者であり、ノイズへ対処するためにさまざまな制御回路が進化してきた。しかし、多数の新たな研究により、「ノイズのない」遺伝子回路では達成するのが困難あるいは不可能だと考えられる重要な機能が、ノイズによって得られる場合もあることが明らかになりつつある。ReviewではA EldarとM Elowitzが、ノイズそのもの、ノイズがみられる遺伝子回路の構造、およびノイズによって可能になる生物学的機能の3つをつなぐ、最近明らかになってきた原理について論じている(p.167)。またJ Paulssonたちは、制御情報理論を用いて、生物学的系のノイズ低減能に存在する根本的限界を測定している。遺伝子ネットワークの精度を2倍に向上させるには、シグナル伝達の段階の数を16倍に増やす必要があることが明らかになった(p.174)。これによって、生化学的なノイズがなぜこれほど存在するのかが説明できるかもしれない。つまり、その修正はコストが非常に多くかかる場合が多いのである。

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